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東作の松本三郎さんが亡くなったそうです。
天明8年創業の江戸和竿総本家6代目です。

レジャー時代が到来した高度経済成長期。釣り竿産業は企業化さえも視野に置けた成長分野でした。一瞬の間ではありましたが、東作もシマノやダイワのようになれるチャンスがあったのです。

まもなく訪れたのが素材革命でした。化学素材のグラスロッドが市場を席捲。天然素材の竹竿を軸足に釣り用品の総合企業を目指していた東作は、足払いを食らったかたちで倒産の憂き目に遭います。

年若く、まだ和竿部門の一職長でしかなかった三郎さんは経営責任を免れました。
その後は、ひとり竹と漆に向き合う道を進みます。
ひとり精進を続け、名門東作の名に恥じない作品を出し続けます。

享年95。徒弟制時代の竿づくりを知る最後の職人だと思います。
このような職人はもう出てこないでしょう。
三郎さんの口調や物腰には、いつも江戸文化の残り香のようなものが漂っていました。

思い出はたくさんあるのですが、私がいちばん驚いたのは「手拭き」という塗りの技法です。
刷毛ではなく、親指と人差し指の間の柔らかい股のところで漆を竹に刷り込むのです。
慣れれば素手で触れてもかぶれないというのも驚きでしたが、人間の柔肌がいちばんきれいに塗ることができると聞いて、いたく感動したことを覚えています。

晩年に聞き書き形式でまとめたさせていただいた『竹、節ありて強し』(現在は『江戸和竿職人、歴史と技を語る』という題名で平凡社より販売)は、私の宝物のひとつです。

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