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ここ数年、とくに直近になって「腸内フローラ」が大きくクローズアップされています。年末年始のテレビ番組だけで3本ぐらい見た気がします。
私たちの大腸には種類でいうと少なくとも数百種、個体数では1兆個もの微生物が棲んでいて、私たち宿主の健康は、それら微生物の関係性、つまり生態系的メカニズムに左右されているというものです。

腸内フローラは自律神経や免疫機構とも深い関わりを持ち、感情などの精神面にも影響を与えているというから驚きです。そこでポイントとなるのは、微生物がどのような関連性のなかで活動することが、私たちの健康にとってよいことなのかということです。

その普遍的メカニズムに早くから気づき、自社の取り組みの中で発信してきた会社があります。私の家からいちばん近い酒蔵、千葉県神崎町にある寺田本家です。
寺田本家さんは、これまで何度か取材をさせていただいていますし、客としてもちょこちょこおじゃましていますが、今回は「腸内フローラ」という酒蔵取材らしくない視点でお話を聞かせていただきました。

発酵と腐敗の定義は、人にとって有益な微生物活動であるか、有害な微生物活動であるかの違いだけです。腸内フローラの関心もここに集約されます。
善玉菌と悪玉菌という言葉があるように、従来、善が悪に打ち勝った状態が「発酵」と位置付けられてきました。しかし、腸内フローラのメカニズムを見ると、私たちのおなかの中のしくみはそんな単純な二項対立論ではできていないらしい。
弱肉強食のようなわかりやすい戦いではなく、そこにはどうやら調略も同盟も和平交渉もあるようです。いわゆる善玉菌がよい政治力を発揮すれば悪玉菌は沈静化して発酵になり、腸内での指導力が衰えると腐敗になる。その指導力を決めるのが、食生活を中心とする私たちの選択行動です。

「蔵に棲む菌を単純に善玉と悪玉に二分して論じてきた酒造りの常識も、ひょっとすると少し違うのではないか。
競争で活性化されると信じられてきた経営も同様で、重要なのは共生ではないか」と早くから論じていたのが、先代当主の寺田啓佐さんでした。

酒造も経営も自然に謙虚に学び、自然にまかせることがいちばんであることを、過去の苦い経営経験や大病の中で気づいたのです。
米を全量無農薬米、醸造方法を江戸時代からの生酛(きもと)造りに替えたのもそのためです。味の技術を競い合うコンクールとは縁を切り、自然に委ねる健康志向の酒に蔵の未来を託しました。

その後、世間では塩麹や酒粕ブームに沸き、発酵が大きな社会的ムーブメントになりました。搾取性を含んだ商品やサービス、つまり競争を前提した消費経済を否定する「エシカル消費」(倫理的消費)も世界的に注目されています。
『田舎のパン屋が見つけた腐る経済』のように、経済や生き方のありようを微生物から学ぼうという本がベストセラーになったりしています。

3年前から蔵の経営を継ぐ24代目の寺田優さんが今見据えているのは、酒を柱にした総合発酵業です。日本酒や派生製品の製造販売にとどまらず、発酵型のライフスタイルや共生思想を前提としたあらゆる活動を仕事に結び付けようというものです。

微生物が私たちに教えてくれていることは、おそらくまだほんの一部。関心のある方は、今発売中の小学館月刊BE-PAL2月号『ルーラルで行こう!』をご覧いただければ幸いです。

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